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貸家建付地における賃借割合について

 相続税において最もポピュラーな節税対策の一つとして「賃貸アパート」の建設が挙げられるのではないでしょうか。
 アパート建設の際の借入金が債務として相続財産から控除されることで相続財産を圧縮する効果があり、更にその土地については約2割に評価減、建物については3割の評価減・・・と、何だかいいこと尽くめの節税対策のように思えてしまいますが、ここのところこの「貸家建付地」絡みの節税策について何やら雲行きが怪しくなってきたように感じられます。
 そもそも自分の土地の上に建てた建物に賃料を貰って他人を住まわす行為については、専門的な用語で言うところの「借家権の支配」が及ぶこととなり、その人を勝手に退去させることはできず、退去してもらうには立退料という費用が発生することとなり、そのように自分の土地建物について自由な使用が制限されることに対して財産評価上、評価減という斟酌がなされることとなっております。
 しかしながら賃貸集合住宅においては、常時満室という状態が続くということは地域によっては考えづらく、築年数が経つほど空室割合が増すほうが一般的なのです。
 ここが問題で、相続税における財産評価は相続発生時における時価となっており、つまり亡くなった日にその部屋に入居者がいない場合、その部屋については「借地権の支配」が及んでないことから、その土地及び建物についての評価減を受けられなくなってしまうのです。
 ただし、さすがにたまたま亡くなる直前に入居者が退去してしまい、すぐに新たな入居者が入るケースについては、入居者がいるとみなして評価減を受けることができるのですが、その要件として常に賃貸用として募集もしている等の場合、課税時期前後概ね1か月程度の空室については、入居者がいるものとして評価減が認められるという国税庁の情報が公開されております。
 ここでいつも揉めるのが、「課税時期の前後の例えば1か月程度の空室期間」についての解釈なのです。
平成20年6月の高松国税不服審判所裁決事例では、空室期間が生じた諸事情も考慮すべきとし、最長1年11か月の空室期間も一時的な空室として認められこの裁決が一時的な空室の期間についてのジャッジにおいて重要な判断材料となっておりましたが、ここのところの裁決事例ではその一時的な空室に期間が短くなっており、とうとう平成29年5月11日の大阪高裁において5か月の空室を長期間と判断される判決が出てしまいました。
このような流れがスタンダードとなってしまうと、課税庁側は金科玉条の如く課税時期前後1か月以上は空室と判断してくることとなるでしょうし、納税者側としてもこの空室期間についての諸事情を主張しづらくなってしまうのではないでしょうか。
例えば、10室のうち8室が空室というアパートの場合、20%の評価減がたった4%の評価減となってしまうのです。
 昨今の賃貸アパートの建設ブームを考えると、今後も築年数が経てば経つほど空室が増える可能性は高くなり、せっかく節税対策として建てたアパートも建設当初に想定していた評価減を十分に受けられなくなるという事態が今後増々増えてくるのではないでしょうか。
埼玉本部 菅 琢嗣
 


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